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インタビューのみ必読『なぜ「小三治」の落語は面白いのか?』(著:広瀬和生)

八月上席の池袋演芸場のトリは毎年恒例、柳家小三治師匠です。
聴き終わった後、「小三治本」が発売されているのを思い出して、購入して帰りました。
この本の校了直前にたまたま人間国宝になったということで、
人間国宝認定に合わせた出版ではないようです。(そりゃさすがに時間的に無理だ)



なぜ「小三治」の落語は面白いのか?
広瀬 和生
講談社
売り上げランキング: 2,899

この落語家を聴け! (集英社文庫)
著者の広瀬和生さんは、当ブログでも前に紹介した「この落語家を聴け!」を書いた方で、ほぼ毎日落語を鑑賞しており、現代の生で聴ける面白い噺家をよく知っている方です。私も二度ほど著作にサインをいただいたことがあるので、まあ外れということはないだろうと思い、購入しました。

目次は、これだけ。

第一章 小三治 ロングインタビュー
第二章 ここが好き! 小三治演目九十席


第一章が、本全体の1/3ぐらい。残りの2/3が第二章です。

    結論から言いますと、第一章のインタビューがめちゃくちゃ面白い。
これだけでもファンは買う価値があると思います。
ファンだけでなく、小三治師匠の落語を聴いたことが1回でもあるかたは、何かしら楽しめる要素があります。

このインタビューのいちばんの面白いところは、小三治師匠が落語を演じるに当たっての「苦悩」を比較的率直に語っている点だと思います。
インタビュアーの広瀬さんがかなりの長いあいだ小三治師匠を追っかけていらっしゃるので、
「あの会ではこんなことを言ってましたね」「あの独演会では1席しかやりませんでしたね」というような質問をどんどん投げかけ、小三治師匠も「あなたよく見てるね。そのときは実はこんなことを考えていて~」というような形で、種明かしのようにインタビューが進んでいきます。
おっかけている人からすれば、あの時のあの噺にはこんな考えがあったのか!とかなり楽しむことができるでしょう。

例えば小三治師匠は、去年の10月に鈴本演芸場でトリをとったとき、出番があった7回中4回「野ざらし」をかけました。
その時期の某掲示板などには「齢をとって演目が少なくなっていく」などとひどい書き込みがあるのを私も見ましたが、
このインタビューで、その背景には簡単に演じると簡単にウケてしまう「野ざらし」を、もっと深いものにできないかという師匠の模索と葛藤があったんだということがわかります。


第二章の部分は、小三治師匠の持ちネタを、著者の広瀬氏がオススメのCD・DVD商品とともに解説しているだけなので、まぁ、一章の濃厚さに比べればおまけみたいなものです。
90席紹介されていますが、小三治師匠は自ら「今の持ちネタは30~40」とテレビの番組で語っていたことがありました。
そのため、読んでいると、「この半分以上はもう生で聴けないのか」という、ちょっとした悔しさを感じてしまいます。
それでも大丈夫な人はこのパートを読むといいし、紹介されている過去の音声や映像を買うのもいいと思います。

30~40の持ちネタが、現在においても試行錯誤の末に進化し続けているので、
生の師匠の落語が今でも寄席で聴けることの喜びは、やっぱり大きいのです。